今回はハワイ在住の弁護士・GO法律事務所の佐渡山先生に「エステートプランニング」についてお話を伺いました。 長年にわたり、日米をまたぐエステートプランニング、相続・資産管理の相談に応じてきた経験から、多様化するライフスタイルに応じた、実務的で現実的なアドバイスをいただきました。
「エステートプランニング」とは?
佐渡山先生:
「エステートプランニング」とは、ご自身の将来の相続や医療・財務管理についての意思決定を、元気なうちに計画しておくことです。
- 自分に万が一があった場合、誰が、どのような形で財産を受け取るのか
- 病気、事故、認知症などでご自身の財務や日常生活において判断能力を失った場合、誰が医療的な判断や資産の管理を代行するのか
- 不動産や預金口座などを、できるだけスムーズに相続するにはどうすればいいか
このような課題に対し、計画を立てるだけでなく、それを実行するために必要となる法的書類を整えておくことが重要です。それがあることで、託された方もスムーズな相続や管理を行うことができます。
エステートプランに含まれる法的な書類
ご自身の資産内容や意向に合わせて、必要となる準備が変わってくるのがエステートプランニングです。以下は、エステートプランニングで一般的に整備される主な書類・制度です。
- 遺言書(Will)
- 生前信託・リビングトラスト(Revocable Living Trust)
- 委任状(Power of Attorney)
- 医療指示書(Advance Healthcare Directive)
基本的な相続のルール
まずは基本的な資産の相続の考え方についてご説明します。
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アメリカにある資産はアメリカの法律に基づいて取り扱われる
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日本にある資産は日本の法律に基づいて取り扱われる
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遺言書がない場合は、それぞれの国で法定相続に従った財産分与が行われる
なので、アメリカ人の所有するアメリカ国内の資産を、アメリカ人の子供が受け取る。こういったケースは難しくありません。
難しいのは、資産の所在国、また相続に関わる人の国籍が異なるケースです。
例えば、永住権を持っていた方が、アメリカで財産を築いて来たが、永住権を放棄して日本に帰国するケース。あるいは、ご自身と相続人(配偶者やお子さん)の国籍が違ったり、日米に資産が存在しているケースなど。相続に関わる人の国籍、居住地、資産の所在国の組み合わせによって相続税・遺産税の課税対象や税率が大きく変わってきます。
このようなケースでは、
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どの国の資産を、誰に、どのような形で遺したいか
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どの国で課税される可能性があるか
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日本とアメリカの双方で申告が必要かどうか
といった「税務上の最適なシナリオ」をまず日米の税制に詳しい税理士と相談し、方針を明確にすることが重要です。
例えば、アメリカのエステートタックス(遺産税)は非課税枠が約1,399万ドル(個人で日本円で約21億円。来年からは1500万ドル、約22億円。)と高額であるのに対し、日本の相続税の非課税枠は1人当たり3,600万円。どちらの国で課税対象となるかによって、税負担は大きく異なります。また、日本では相続を受けた人が相続税を払う義務があるのに対し、アメリカでは遺産に対して遺産税がかかり、その残りを相続人が受け取る、というそもそも仕組みの違いがあります。そういった前提条件を踏まえて、どの国に資産をどのように持つかという長期的な視点も必要になります。
この税務プランが決まって初めて、弁護士が法的な整備に入るというのが一般的な流れです。
プロベート回避がカギになる!エステートプランニングの詳細
遺言書(Will)
死後の財産の分配、遺言執行者の指名、未成年の子どもがいる場合は後見人の指定を行うための書類です。
基本的には遺言書のみだと、裁判所がその遺言書の有効性を確認するための「プロベート(遺産検認手続き)」という手続きを必要とする可能性があります。このプロセスには費用も時間もかかるため「煩雑なプロベートを避けたい」というポイントでエステートプランニングをスタートする方も多いと思います。
遺産が少額(ハワイ州だと$100,000以下)だとプロベートは不要になります。また後述しますが、資産によっては死後受取人を指名しておくだけで、プロベートを回避できるものもあります。
リビングトラスト・生前信託(Revocable Living Trust)
プロベートを回避するために最もよく利用されるのがリビングトラストです。トラストに入っている資産はプロベート対象外となります。特定の資産をトラストに移し、ご本人の判断能力が失われた際、また死後において、トラストがその資産を管理・分配できるようにする法的な仕組みです。
リビングトラストは下記のようなケースで資産管理や移転を円滑に進める手段となります。
- 資産が多額な場合
- 国をまたぐ資産がある場合
- お子さんが未成年で受け取り年齢を設定したい場合
- 法定相続以外のルールで相続したい場合など
ただし、後任受託者(Trustee)となる人には、トラスト設定者死亡後、毎年のトラストの運用実績を他の受益者に対して報告する義務があるなど、実務的な義務・負担があるのも事実です。リビングトラストを設定すべきかどうかは慎重に決めるべきでしょう。
ちなみに、リビングトラストを作らなくても、下記のような資産は、死後、プロベートを経ずに資産を指定しておいた人に譲渡することが可能です。
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不動産については、「死後譲渡証書(Transfer on Death Deed)」を設定
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銀行口座・証券口座・生命保険、法人の株式、メンバー権などについては、「死亡時指定受取人(Beneficiary)」を設定
資産がシンプル、かつ相続でもめる可能性が低い方などはこの方法がおすすめです。
複雑な形の資産を持っている方は、相続がしやすいシンプルな形に資産を組み替え、整理を進めておくことも、エステートプランニングの一環と言えるでしょう。
生前に資産内容を、配偶者やご家族などに明らかにしたくないという方もいらっしゃると思いますが、遺される方にその内容をしっかり共有しておくことも大事です。
委任状(Power of Attorney)
判断能力を失った際に、代理人が財産や契約などを管理できるようにするための書類です。一般的なものから条件付きのものまで複数の形式があり、比較的低コストで準備できます。委任状はご本人が判断力がある状態でサインする必要があり、ご本人の死後は無効となるため、将来的な認知症などの”生きている間のリスク”に備えたい方が、信頼できる家族や知人に権限を与える書類となります。日本にお住まいで、ハワイに不動産を所有している方が売却や管理などを、ご家族や知人に委任するなどのケースでも使えます。
医療に関する事前指示書(Advance Healthcare Directive)
意識不明や末期の状態において、どのような医療措置を望むか、またその意思決定を行う医療代理人を指定するための書類です。本人が意思表示できない場合でも、あらかじめ指定された代理人が、本人の希望に基づいて治療方針を選択することができます。
佐渡山先生からのメッセージ
この記事をご覧になっている方の中には、
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日本に住みながらハワイに不動産などの資産を持っている方
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アメリカ人で長年生活してきたが、将来的には日本への帰国を検討している方
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今後、アメリカと日本のどちらをメインの居住地にするか決めかねている方
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配偶者やご家族で、居住地や国籍が異なるファミリー
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単身で身寄りのない方
など、さまざまな状況の方がいらっしゃると思います。
いまや家族全員が同じ国に住み、同じ国籍を持つことは、当たり前ではなくなってきています。永住権保持者の方は、永住権の放棄など、居住ステイタスにも関わってきます。
エステートプランニングは、“富裕層だけの話”ではありません。
「いざというとき、家族に迷惑をかけず、自分の望んだ形での資産管理や医療、生活を送れるかどうか」を左右する、大切な備えです。そしてその準備は、元気なうちにこそできるものです。
GO法律事務所では、日米の税務に精通した「山田&パートナーズ」などと連携し、包括的なエステートプランニングのサービスを提供しています。将来への備えを始めたいという方は、ぜひ一度ご相談ください。
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佐渡山先生へのお問合い合わせは、ハワイのGO法律事務所までどうぞ!