アメリカ資産の「相続」と「エステートプランニング」に関するよくある誤解 アドビス法律事務所のマロッツ (古屋) 有沙弁護士にインタビュー

更新日 2023.05.05

今日はアドビス法律事務所のマロッツ (古屋) 有沙弁護士に、日米のクロスボーダーのエステートプランニングや相続で「よくある勘違い」、またどんな人が早めに準備をしておくべきなのかについてインタビューした。

目次

マロッツ (古屋) 有沙弁護士

アドビス法律事務所のマロッツ (古屋) 有沙弁護士は、アメリカの資産についての相続やステートプランニングを手がける弁護士である。その中でも、日米のクロスボーダーのエステートプランニングや相続の事例に数多く携わってきた。今日は有沙先生が、実際にクライアントと接している中で感じている相続やエステートプランニングに関する「よくある誤解や勘違い」また「どんな人がエステートプランニングを準備しておくべきなのか」など、実際に多くのクライアントと接した体験談を踏まえてお話いただく。

「相続」と「エステートプランニング」に関するよくある誤解

弁護士はクライアントの味方!
「弁護士に相談したら怒られるかも・・・」は誤解です

マロッツ弁護士:
私のところにご相談に来られる方の中には、相続対策やエステートプランニングのことを弁護士に相談したら「弁護士の指示で、すぐに何かをやることになるのでは」と心配していた方も多いです。

実際に、別の弁護士事務所に相談した時に「なんでもっと早くやらなかったのですか!」と怒られて嫌な思いをした、とおっしゃるクライントさんもいらっしゃいました。

しかし、弁護士はあくまで「クライアントの味方」。
あくまでもクライアントのご希望に沿う形で、長期的にお役に立つことが一番大事です。ぜひ何でもお気軽に相談していただければ、ということを最初にお伝えしたいと思います。

「相続」=「エステートプランニング」だと思っていませんか?

まず前提となる「相続」と「エステートプランニング」の違いを説明します。

「相続」とは、その方が亡くなった際に、資産を相続人へ移行させる手続きのこと。あくまでその方が亡くなってから発生するものです。

「エステートプランニング」とは、人生のより長い時間軸において、資産だけではなく、医療に関する意思、個人情報の開示などの重要事項についてご自身の意思を表明した書類の集合体のことを指します。

人生のステージが変わっていくことを前提に、元気な期間、そして病気や怪我などで身体の自由や判断力がなくなる無能力状態になってしまった後、そして最終的に亡くなってしまった後、それぞれの時期をどう過ごしたいかを書類に落としておくのです。

その中の一つ、そして一番最後のパートが「相続」となるわけです。

ケースにより異なりますが、一般的にエステートプランに含まれる書類は下記のようなものになります。

  • Revocable living trust(修正可能な信託)
  • Short form trust(略式版信託) Pour-over Will(遺言)
  • Durable Power of Attorney(財産に関する委任状)
  • Advanced Healthcare Directive(医療判断代理委任状)
  • Assignment of Tangible Personal Property(有形動産のトラストへの名義変更書類)
  • Digital Asset Authorization (知的財産に関する同意書)
  • Designation of Designee to Control Disposition of Remains(葬儀やお墓に関する委任状)


「エステートプランニング」=「相続」と考えてしまう方が多いのですが、エステートプランニングはご自身が元気なうちに行い、亡くなるまでの長い期間において上記のように多くの領域をカバーするものであるとご理解下さい。
 

「エステートプランニング」=「リビングトラスト(生前信託)を作ること」だと思っていませんか?

もう一つ、エステートプランニングに関して、ご自身で色々と検索や勉強をされた方に多いのが「エステートプランニング」といえば「リビングトラスト」を作らなければ!と頭から思い込んでいるケースです。

アメリカでは個人が亡くなった際、遺産の分配を行うために裁判所の管理下で「プロべート」という煩雑な手続きを踏む必要があります。このプロベートを回避する手法の一つがトラストです。個人の資産を生前にトラストに移しておくことで、死後はプロベートを経ずに指名しておいた後任受託者が管理することができます。

しかし、プロベート回避の手段はトラストだけではありません。ケースによってはトラスト以外の手段を活用する方法もあるのです。

例えばハワイに不動産を持っているだけなら死亡時譲渡証書(TODD、Transfer on death deed)や、また銀行口座・証券口座については死亡時支払(Payable on death, POD)という、死亡時にだれに所有権を移すかを決めておくことで、これらの資産はプロベートを経ずに相続することが可能になります。

「プロベート回避するためには、とにかくトラストを作るしかない!」という論調の記事も多いのですが、ご自身の状況に一番合った手段を活用されることが、最善であると考えます。
 

日米をまたぐクロスボーダーのエステートプランニングのためには、

  • アメリカにどういった種類・どのくらいの資産を所有しているか
  • 故人・相続人はどこの国籍・どこの在住の人であるか
  • 家族構成、お子さんの有無 

などの情報を総合的にお聞きした上で、必要充分かつベストな方法をご提案します。

まだ若いから、資産がないから「エステートプランニングは要らない」と思っていませんか?


エステートプランニングは、アメリカ人にとっては「自分の責任において、やらなければならないもの」と認識されています。一方、日本ではエステートプランという概念があまり浸透していないためか、日本人の方の多くはエステートプランニングの必要性を実感されていない方が多いように思います。

上述したように、エステートプランニングで決めておくのは資産の分配だけでなく、医療に関する意思なども含まれます。病気や事故などで身体の自由や判断力がなくなる無能力状態は、いつ誰の身に降り掛かってきてもおかしくありません。

もしもそういう事態が起きたとき、自分はどうしたいか?ご家族や託す方にどうしてほしいか?元気なうちから考えて準備しておくことで、いざという時に周囲の方に大きな負担がかからない形を作っておくことができます。

特にこんな方には「エステートプランニング」の準備をおすすめします

ご自身が無能力になった場合に、頼れる方がいない方

ハワイに暮らしていて近くにに頼れる方がいないとか、日本の家族もすぐに対応できないといったケースです。ご自身に何かあり無能力となった場合、誰に看護や医療行為の同意を依頼したいのか、といった重要事項は決めておけば安心です。

特に長くハワイに暮らしている方が無能力になった場合、日本のご家族も老齢化している場合も多く、日本からサポートするにしても英語の壁もあります。このような事態に備えて、ハワイ側で医療や生活をサポートするサービスプロバイダーを選んでおけば安心です。日本のご家族向けにリモートで通訳を入れて説明するなどのサービスもあります。

アメリカ人の配偶者に任せきりの方

アメリカ人の配偶者の方に資産管理のすべてを任せきりにしてきた方は、ぜひ早めにエステートプランニングについて考えていただきたいです。配偶者の方が急死された場合、資産内容や口座情報などが全てわからないという状態では、その後の相続が非常に大変になります。口座から引き落としが続いているものを止めると言ったことすら困難になります。

未成年のお子さんがいらっしゃる方

未成年のお子さんがいらっしゃる方はご自身に何かあった際、お子さんの看護人を誰にするか、お子さんが成人するまでの期間、資産をどのように管理していくかなどを決めておくことができます。



ーーー 

次回の記事(後編)では、実際にエステートプランニングの際に考えておきたいポイントとして、「リビングトラスト」は引き継ぐ実務が非常に大変!って知ってますか?というテーマでマロッツ弁護士にインタビューする。

事務所の全員が日英のバイリンガル

ハワイー日本をまたぐクロスボーダーの相続やエステートプランニングについてのご相談はアドビス法律事務所までお問い合わせください。
こちらからどうぞ>

 

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