ハワイで活躍する心臓カテーテル専門の循環器内科医 Dr.筒井 礼治にインタビュー (ハワイ・パシフィックヘルス)

更新日 2026.08.18

筒井 礼治(つついれいじ)医師 プロフィール

心臓カテーテル治療を専門とする循環器内科医。現在はハワイ・パシフィック・ヘルスで、心血管部門の医療品質と治療成績を統括するDirector of Cardiovascular Quality and Outcomes、およびMedical Director of Cardiovascular Innovationsを務める。
特に、胸を開かずにカテーテルを用いて心臓弁を置換する「経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)」など、構造的心疾患へのカテーテル治療が専門。ニュージーランドのオークランド大学医学部を卒業後、ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院で公衆衛生学修士(MPH)を取得。米国屈指の医療機関、クリーブランド・クリニックで内科研修、心血管疾患およびインターベンショナル心臓病学の専門研修を受け、チーフ・フェローも務めた。また、ハワイ大学医学部のAssistant Professorとしても教育にも携わる。

1分が生死を分ける心筋梗塞の救急現場で”14分”を削り出す

現場の連携改善でもっと救える命がある

筒井先生:

私は循環器内科としてハワイのストラブ・ベニオフ医療センター(ハワイ・パシフィックヘルス・グループ)にて診療を行っています。専門はカテーテルを用いて心臓弁を置換する「経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)」です。


ハワイに来る前は、米国屈指の大きな医療機関であるオハイオのクリーブランド・クリニックで8年間、研修医として働いていました。それに比べると、ハワイの病院の規模は決して大きくありません。しかし、医療の質は高く、アメリカ本土にも引けを取らない水準です。その一方で、医療のデリバリー体制や院内のフローには、まだ改善の余地があると感じていました。

研修後にどこで働こうかと考えた時、大規模な病院の中の狭い役割を全うするか?それとも、小さな病院であっても大きなインパクトが出せる仕事を目指すか?と自問しました。その答えとして選んだのがハワイでした。


自分がリーダーとして取り組んだことの中に、急性心筋梗塞の治療時間を短縮するイニシアティブがあります。これは私が衝撃を受けた実体験が元になっいます。

ある日、心筋梗塞の急患が、心肺蘇生(CPR)されながら救急車で運び込まれました。救急車で患者さんを確認した私は「カテーテル室で待っていますね!」と声をかけて、待機していました。しかし、なかなか患者さんが到着しない。救急車からER、院内のリレー搬送、また患者さん本人への意思確認やサイン依頼など、規定の手順をこなしているうちに、患者さんの心肺が停止してしまったのです。

幸い、その後の治療で一命は取りとめましたが、「瀕死の状態で苦しんでいる患者さんよりも、自分たちのルールを優先していないか?」という疑問を強く抱きました。それがきっかけになって、チーム間のフローを改善するイニシアティブを発足させたのです。

心筋梗塞は「Time is muscle」と言われます。つまり、1分無駄にするごとに患者さんの心筋は死んでいってしまうため、生存率や予後のQOLが大きく変わる。時間との戦いです。医療業界では、発生から90分以内の治療がスタンダードですが、ストラブではすでに標準以下の67分を実現していました。それでも、まだ改善の余地はありました。チーム間の連携を洗い直し、時間のロスなく最短で治療が開始できる体制へと組み替えました。結果として急性心筋梗塞の治療は67分から53分に、14分間の短縮(約21%減)に成功しました。

どのチームも患者さんの命を救いたい想いは同じです。この結果に関係者全員が喜んでくれました。連携を繋ぎ直して、削り出した”14分”は全チームが一丸となってが生み出した”命に直結する14分”です。

AIで大きく変わる医療の今。ハワイにとっては大きなチャンス

AIで病気の見逃しを防ぐ新システムを導入

早期発見、早期治療のためのテクノロジーが劇的な進歩を遂げています。 ハワイ・パシフィックヘルスでもAIを活用した新しいシステムを二つ導入しました。

一つは「イグナイト」で、心エコー検査のレポートや診療データをAIで解析して、病気の見逃しを防止するシステムです。これにより適切な診察や治療につながっていない患者さんの取りこぼしがなくなります。 そしてもう一つは「バンカーヒル」。これは通常の胸部CT画像をAIで分析し、気付いていなかった心臓病の兆候を早期に発見するシステムです。どちらも、AIが得意とする画像解析とパターン認識を生かした、早期発見と早期治療のための先進的なシステムです。
 

大きな成果も出ています。私たちが行うカテーテルによる弁置換の手術はこれまで年間約230件でした。しかし、これらの新しいAIシステムによって、あらたに25件の患者さんが発見され、早期に治療を行うことができました。

アジア人が多いハワイのユニークさ。そのデータが世界で活きる。

実は、アメリカにおける治験のほとんどはアメリカ本土で行われ、対象は白人男性に偏っていることが多いのです。よって全米でFDA承認された薬であっても、同じ様に効果が出るわけではありません。患者さんの遺伝的背景や生活習慣などによって、治療の有効性や副作用に違いが生じる可能性があります。そのため、多様な背景を持つ患者さんを臨床研究に組み入れることが重要です。

ハワイという場所は、アメリカでありながらアジア系の人口比率が際立って高く、アジア系のデータが集中的に取れるユニークな場所です。それを理解しているAI企業は、なるべく網羅性のあるデータを収集、解析し、学習させ、精度を上げるために、ハワイに注目しています。そういった会社との連携を強化するのも自分のミッションの一つです。

そうして解析されたアジア系のデータは、アメリカに住んでいるアジア人はもとより、今後は日本やアジアの国々でも活用できるデータになっていく可能性が高いのです。

日本×NZのハーフである自分の役割、
アジアとアメリカを医療で繋ぐこと

私は日本人とニュージーランド人の両親のもとに生まれたハーフです。ハワイに来て思ったのは「自分のような日系やアジア系のミックスの人がマジョリティだ」という不思議な感覚でした。

ハーフとしての自分のアイデンティティをどうキャリアに活かしていくかと考えた時、自分はハワイを拠点に、アメリカと日本そしてアジアパシフィックの医療をつなぐコネクターでありたいと思っています。
 

前述のように、白人男性に偏っていた治験に、ハワイのアジア人のデータが増えてくることで、アジア人にとって本当に効果のある薬や治療が明らかになってきます。ハワイはアメリカでありながら、むしろアジアにとって役立つ重要な拠点になれる可能性が高いのです。

学会などを通じた人的交流も盛んに行っています。ハワイ、アジア、オセアニア、ハワイを繋ぐ情報交換のための学会を開いて4年目になります。また今年は、初めて弁置換の学会もハワイで開催する予定です。

現状維持にとどまらず、さらに良いものを目指そう。その気持ちを忘れずに進んでいきたいと思います。

ストラブ・ベニオフ・メディカルセンター
住所:888 S King St, Honolulu, HI 96813
電話:808ー949ー9355

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